連載・コラム

【インタビュー】世界中を旅しながら制作・発行するドキュメンタリーマガジン「Studio Journal knock」発行人 西山勲さんの働き方(後編)

未来住まい方会議 by YADOKARI」より転載

創刊号『Thailand』を手に全国の書店を訪ね歩き取引先を開拓、次号がいよいよ旅をしながら発行する最初の一冊。

「実際、旅をしながら本をつくることができるのか自分でも半信半疑なとこがあったんで、次の一冊はこれから活動していくにあたって大切だなと思ってました」

今までの暮らしで手にしたもののうち、自分にとって本当に大切だと思うもの以外はすべて処分し、アーティストに出会うため西山さんは妻の麻未さんとふたり、バックパックを背負って世界一周の取材旅行に出発した。

前編はこちら ⇒ 【インタビュー】世界中を旅しながら制作・発行するドキュメンタリーマガジン「Studio Journal knock」発行人 西山勲さんの働き方(前編)

まずはアメリカ西海岸、カリフォルニアへ

10旅のイメージ写真
サンフランシスコの隣のオークランドにあるAir bnbで見つけた部屋に滞在し、いよいよ活動開始!と意気込んではみたが、ツテもなくどうやったらアーティストに出会えるのかと途方に暮れた。それでもとにかく街を彷徨い、目についたギャラリーを訪ね歩いたりエキシビションに足繁く通ううちに、あるオープニング・レセプションで最初の取材対象となるアーティストに出会う。

「ファッションデザイナーとコラボレーションした華やかなショーだったんです。その雰囲気に怖気づいてしまって、アーティストに声を掛けれずに帰ろうとしたんですけど、妻が「ここで帰ったら何も始まらんやろ!」というので恐る恐る聞いてみるとアッサリOK。だいぶ拍子抜けしました」

ネイティブの英語に悪戦苦闘しながらも無事に1人目の取材を終え、その後、偶然入ったサーフショップで誌面の方向性を決定づけるアーティスト、ジェイ・ネルソンと運命的な出会いをする。

こういう人に会って取材をしたい!

「素晴らしい作品を生み出す才能はもとより、ジェイはライフスタイルから繋がるクリエイティブなコミュニティを持っていた。そんな彼と知り合えたことで、被写体となるアーティストがその活動を通じて社会とどういう接点を持っているのか、また僕自身がアーティストの生き方に共鳴してその物語を誌面で如何に伝えられるかが重要なポイントなのだという原点に立ち返りました」

01ジェイネルソン
しかし西山さん自身が心動かされるアーティストに出会うのは容易ではない。旅の間は常にあらゆるメディアから情報収集をしていたが、その地域に行く前にあらかじめ取材対象を絞り込んだりアポイントを取ったりすることはほとんどしなかったという。

「いくらネットでリサーチをしても結局本人に会ってみなければ分からないし、偶然出会ったアーティストが思いもよらないストーリーを背負っていることもよくあります。そういうハプニングに任せた取材のほうが魅力的だと思います」

03取材風景
興味深いアーティストに出会えなければ無理をせず、次の目的地へと期待を繋ぐ。まさに『Studio Journal knock』は西山さんというフィルターを通したひとつの旅の軌跡であり、内面を色濃く映した日記のような本でもある。

「本を手にとっていただくことはすごく嬉しいことですが、あまりに自分をさらけ出しているようで、恥ずかしさも感じます」

旅をしながら本をつくる理由

04宿での制作風景

制作する場所に滞在できるのはビザの関係もあって長くて3ヶ月。短期間のうちに勝手が分からない異国の地で編集作業をすることはとても大変だ。

現地の家庭に転がり込むようにAir bnbホストを渡り歩き、『California』号を制作するために滞在したカナダのリッチモンドで購入した20インチのモニターとは最後までずっと一緒に旅をした。機材だけでもかなりの荷物である。さらに場所によってはインターネット環境が悪かったり作業するための机がなかったり……。

05宿での制作風景
「それでも現地で編集をしようと思ったのは、鮮度があって熱を持ったものを作りたかったから。その土地の空気や匂いまで閉じ込めたくて撮影は中盤フィルムカメラを使用し、現地の現像所で現像・スキャンして制作をしていました。生々しさや荒さも含めて、他の出版物とは違ったテクスチャーにしたいと思っています」

これからヨーロッパ、中東、アジア、アフリカ、ニューヨーク、そして日本版を発行予定だというが、旅の途中で制作するというスタイルが西山さんにとってはとても重要であることを今回帰国して初めて強く認識したという。

「帰国してしまうと現地での出来事が夢の中のもののように感じて冷静になりすぎてしまうんです。異国を旅する焦燥感だったり驚きや感動、不安や寂しさなどの感情が日本に帰ってくるとどうしても抜け落ちてしまい、作っているものがどこか嘘っぽくなってしまう気がします」

06宿での制作風景
さらに西山さんはこう続ける。
「旅のライブ感を大切にして、他にない本をこれからも作っていきたいと思っています。生きること、つくることの本質に迫る本であり続けるために、物語に余計な脚色をしたり、作為のあるもので読者を、何よりも自分を裏切らない本づくりをしていきたい。世の中に溢れる、売るために作られたものにはない、自分の足で世界を歩いて、そこで偶然出会った物語だけを淡々と綴っていきたいと思っています」

世界のアーティストとの出会いを綴る『Studio Journal knock』は、最後に沖縄から北海道まで日本を縦断する旅を予定している。古いバンで生活しながら各地のアーティストを取材する1年がかりの長い旅になるという。

「世界各地の旅を経て、日本のアーティストの方々を取材していくことで、自分が生まれ育った日本という国を俯瞰して見ることができると思う。そしてせっかくバイリンガル仕様にしてるんだから、日本のアーティストを世界に向けて紹介したい。来年は中東・アジアを取材する予定なので、同時に営業活動も積極的にやっていこうと思っています」

16移動しながら制作

自分の時間は有限であり、人生は一度きりの短いもの

14旅のイメージ
西山さんのように、今までの価値観を覆す決定的な出来事がすべての人の身に降りかかるとは限らない。しかしふと立ち止まり、人生を振り返るチャンスはどこにでも転がっている。その瞬間を逃さずに、さらに一歩奥まで踏み込んで人生を賭してやりたいことは何なのかをしっかり見つめることの重要性を、今回のお話を聞いて改めて教えられた気がする。

もちろん、夢に向かって歩みだすことは勇気が必要な決断であるし、困難を伴うものになることは間違いない。けれどもここで簡単に諦めないことが、生きている実感を取り戻すことに繋がるのだと、西山さんは自らの体験から私たちに伝えてくれた。

Studio Journal knock

取材・文/大村佳子